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アンティークジュエリーに纏わる情報とエピソード


by Infanta_ayan
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魂を漁る女

魂を漁る女_b0017697_434284.jpg

レオポルド・フォン・ザッハー=マゾッホ 著
藤川 芳朗  訳   中公文庫


本作品は、今年読んだ小説の中で『悪魔のような女たち』とNo.1、No.2、を争うというぐらい気に入りました。
19世紀後半、キエフを舞台に繰り広げられるカルト集団で重要な役割を果たす美女ドラゴミラに魅入られた二人の男ソルチュク伯爵とチェジムの三種三様の心理劇が繰り広げられる中、愛するチェジムを守る為に美少女アニッタが命を賭けてドラミゴラと戦う有様が見事に織り成された物語です。



最初は、あまりの厚さに(500Pは軽く超えています。)少々不安になりましたが、平易で美しい日本語訳と物語の面白さにすぐその心配は吹き飛びました。

そして、この小説の魅力はイコール、異端宗教に身も心も捧げる美女ドラミゴラです。
文中でスフィンクスにも例えられる妖しいばかりの魅力を振り撒き、次々に男達を虜にしていきますが、彼女は誰のことも愛さない「冷酷な美女」です。
ロシアの異国情緒をふんだんに感じさせるドレスなどの装束の描写も、ドラミゴラの魅力を的確に伝えています。

わたしはこの小説を「魂を奪われた者達の現世復帰の物語」として読みました。
ドラミゴラは宗教に魂を奪われ世俗と乖離した精神状態にあり、ソルチュク伯爵とチェジムはドラミゴラに魅了され常軌を逸し、そしてアニッタはチェジムを取り戻す為に(ドラミゴラに魅了された心を)戦ったのだと。

「美」をファースト・プライオリティに置き、魂を奪われるほどのものとの出会いがあることが人生の歓びだと信じて疑わないマニアの私には、魂を奪われたまま生きていくことの幸せだってあるのに、とこの手の作品を読むたびに思います。

物語の最後には、ドラミゴラ、伯爵、チェジム、アニッタのそれぞれの運命が分かれます。
けれども、本当に幸せな結末を手に入れたのは誰であったのか・・・に関しては、物語としての大団円とは別にある、と密かに私などは思ってしまうのです。

マニアとは、どこまでいっても利己的な欲求が充足させられることを希求して止まないもののようです。

■蛇足
本作をご存知の方が、この感想を読んだら、こいつは危ないヤツだ!と思われそうな感想になってしまいましたが、思わずそう思わずにはいられないぐらい「残酷で美しい物語」です。
by infanta_ayan | 2005-11-14 04:59 | 読書倶楽部